-精神科コラム- 2024年7月

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適応障害とは?-2024年7月4日-

適応障害は、「環境の変化に適応できず、そのストレスによって心身に何らかの症状がおき、生活に支障がでる病気」です。

環境が大きく変化したときには誰にでも起こり得る身近なもので、日本人の一生のうち、有病率は 5~20 %とも言われています。

環境の変化はささいだったとしても、その人の性質に上手く折り合わなければ強いストレスがかかり、適応障害を発症してしまうことがあります。

それは決して、本人の弱さだけが問題であるわけではありません。例えばバリバリ仕事ができる人や何年もしっかり働いていた人であっても、どうしても合わない人間関係や業務内容があれば、そこから適応障害につながってしまうこともあります。

自分が望むように生きていける人は、世のなかでもごく僅かだと思います。職場や家庭などで様々な変化にさらされて、そこに適応していくことが求められます。

何とか適応しようと努力しても上手くいかないと、そのギャップが心理的葛藤やストレスとなります。ストレスが心身に症状をきたすようになると、適応障害として治療が必要になっていきます。

そのストレスがあまりに続いてしまうと、うつ病などにも発展していくことがあります。

うつ病とは?-2024年7月11日-

うつ病は、気分が強く落ち込み憂うつになる、やる気が出ないなどの精神的な症状のほか、眠れない、疲れやすい、体がだるいといった身体的な症状が現れることのある病気で、気分障害の一つです。
気分障害は大きく「うつ病性障害」と「双極性障害(躁うつ病)」に分けられ、いわゆる「うつ病」はうつ病性障害のなかの「大うつ病性障害」のことです。うつ病では気分が落ち込んだり、やる気がなくなったり、眠れなくなったりといったうつ状態だけがみられるため「単極性うつ病」とも呼ばれますが、一方の双極性障害はうつ状態と躁状態(軽躁状態)を繰り返す病気です。

【うつ病の症状】

「うつ病」といっても、その病態は多様です。①症状の現れ方、②重症度、③初発か再発か、④病型など、さまざまな特徴があります。

① 症状の現れ方も様々

うつ病では抑うつ気分だけがみられますが、抑うつ気分と躁症状を繰り返す双極性障害という病気もあります。治療法が異なりますので専門家による判断が必要です。

② 重症度も様々

症状による仕事や日常生活に現れる支障の程度によって、重症度「軽度」「中等度」「重度」が変わります。

軽症:仕事や日常生活、他人とのコミュニケーションに生じる障害が自覚的にはあるものの、周囲の人はその変化にあまり気がつかないことも多いレベルです。

中等症:「軽症」と「重症」の間に位置します。

重症:仕事や日常生活、他人とのコミュニケーションが明らかに困難なレベルです。
 

③ 初発か再発かという視点

「単一性」か「反復性」かという分類です。「反復性」の場合は、特に再発防止が重要であり、双極性障害の可能性も考えておく必要があります。

④ 特徴的な病型による分類

「メランコリー型」、「非定型」、「季節型」、「産後」などがあります。

メランコリー型:典型的なうつ病と言われることの多いタイプです。
仕事や家庭などの役割に過剰に適応しているうちに脳のエネルギーが枯渇してしまうような経過をたどるものを指しています。特徴としては、良いことがあっても一切気分が晴れない、明らかな食欲不振や体重減少、気分の落ち込みは決まって朝がいちばん悪い、早朝(通常の2時間以上前)に目が覚める、過度な罪悪感、などがあります。

季節型:「反復性」の一種で、特定の季節にうつ病を発症し季節の移り変わりとともに回復がみられます。どの季節でも起こりうるのですが、冬季うつ病がよく知られていて日照時間との関係が指摘されています。

産後:いわゆる産後うつ病と言われ、産後4週以内にうつ病を発症するものです。ホルモンの変化の影響が大きく、分娩の疲労、子育てに対する不安、授乳などによる睡眠不足など、不健康要因が重なることが影響していると考えられています。産後半年以上経過すると、改善するとも言われております。

非定型:良いことに対しては気分がよくなる、食欲は過食傾向で体重増加、過眠、ひどい倦怠感、他人からの批判に過敏、などの特徴があります。

非定型うつ病とは?-2024年7月18日-

非定型うつ病は、世間のみなさんがイメージしているうつ病とは異なる症状の「うつ病」です。

従来のうつ病というと、常に調子が悪いのが続き、周囲からも本人が落ち込んでいるのが分かります。しかし非定型うつ病では、嫌なことがあれば落ち込むけれど、良いことがあれば元気になるという気分反応性がみられます。

周囲も本人でさえも自分の性格と考えてしまうことも多い病気ですが、その落ち込みはうつ病の規準を満たすほどに深く、本人の苦痛も大きいのです。

非定型うつ病の症状としては、

  • 気分反応性
  • 社会生活に支障をきたす拒絶過敏性
  • 過眠
  • 過食
  • 鉛管様麻痺

 
この5つの症状が大きな特徴となっています。ここでは、非定型うつ病の症状と、多くみられる合併症についてお伝えしていきます。

【非定型うつ病とうつ病の違い】

非定型うつ病とは、うつ病の診断基準は満たすけれども、従来のうつ病とは異なる特徴をもつ「うつ病」のことです。まずは従来のうつ病(定型うつ病)との違いをみてみましょう。

従来のうつ病は、真面目で几帳面な方がなりやすいとされていて、周囲から見ても病気と分かるうつ病でした。症状としても、気分の落ち込みや不眠になります。意欲も思考力も低下してしまい、何をするにもうつうつとしています。さらに人との接触を避けようとします。

これに対して非定型うつ病では、憂うつな気分は確かにあるのですが、自分が楽しいことをするような時には、急に元気がでてくるのです。「うつ病で休んでいるのに、旅行は行けたり、飲み会は楽しめる・・・」といったこともあります。症状としても過眠や過食が目立ち、周囲から自分を否定されることを極度に敏感になり、周囲に攻撃的になることもあります。

このように、従来のうつ病とは様相が異なる非定型うつ病ですが、調子が悪いときにはうつ病の診断基準を満たすほどの症状があり、本人にも大きな苦痛がある病気なのです。

従来のうつ病は、十分な休養をとったうえで抗うつ剤を服用し、比較的抗うつ剤も効果が期待できました。これに対して非定型うつ病は、単純に休めば治るという病気でもなく、抗うつ剤も効きにくいのです。カウンセリングや認知療法による精神療法も必要となります。

症状としては軽症~中等症であることが多いのですが、慢性化してしまうことも珍しくありません。ときに不安障害や摂食障害が合併することもあり、性格負因も影響するためパーソナリティ障害に近い症状を呈することもあります。そういう意味では、早くから「非定型うつ病という病気」と捉えて治療をしていくことが大切です。

【非定型うつ病の診断基準】

  • 気分反応性
  • 社会生活に支障をきたす拒絶過敏性
  • 過眠
  • 過食
  • 鉛管様麻痺

 かつ、「気分反応性は必須+合計3つの症状」が認められた場合に、非定型うつ病と診断されます。

非定型うつ病は、周囲も本人でさえも性格と考えてしまうことが多いです。深い落ち込みがある方は、非定型うつ病である可能性があります。

【非定型うつ病で、起こりやすい発作】

  • 不安抑うつ発作
  • 怒り発作
不安・抑うつ発作とは、急に不安が強まり、極度に落ち込んでしまいます。「誰も自分のことを理解してくれない」「どうして私は病気になってしまったのだ」という悲観的な気持ちが強まります。そのまま涙に明け暮れることもあれば、他人への嫉妬に変わることもあります。

この不安感を解消するために、衝動的に自己破壊的な行動に出てしまうこともあります。過度な飲酒やむちゃ食い、異性に走ったり、リストカットや過量服薬などの自傷行為です。

怒り発作とは、自分が否定されたと感じたり、自分にとって嫌なこと・納得いかないことがあった時に生じる発作的な怒りです。相手に対して激高して罵声を浴びせたり、周囲のものを破壊したり、ときに暴力を振るうこともあります。落ち着くと、一転して後悔の念にかられ、自己嫌悪に陥ってしまうことが多く、発作的な怒りになります。

【非定型うつ病は合併症が多い】

非定型うつ病は、不安が根底に強い病気です。社会不安障害をはじめ、パニック障害や全般性不安障害などの不安障害を合併することが多いです。そのため、不安障害のような症状とまではいかなくても、不安になりやすい気質であることは多いです。

また非定型うつ病は、原因不明の慢性疼痛疾患である線維筋痛症や、片頭痛といった体の痛みを合併することが珍しくありません。さらに過敏性腸症候群や耳管開放症などの自律神経症状による身体の機能異常を合併することも多いです。

非定型うつ病の方の病前性格は、むしろ周囲からは良い人に思われていることが多く、専門用語で過剰適応といいます。その特徴として、症状や周囲との人間関係の破綻などから性格も変化していきます。病気が長引くとその性格が固定化してしまい、パーソナリティ障害となってしまい、境界性パーソナリティ障害や回避性パーソナリティ障害などが合併することもあります。

以上から、最近増えてきた新しいタイプの「新型うつ病」と混同されることが多いですが、あくまで非定型うつ病は症状から判断され、典型的なうつ病とは違う病態のことをいいます。

双極性障害とは?-2024年7月25日-

双極性障害は、うつ病を含む「気分障害」のひとつで、統合失調症と共に、二大精神疾患の一つとされてきた疾患です。

うつ状態だけがおこる病気を「うつ病」と言いますが、このうつ病とほとんど同じうつ状態に加え、うつ状態とは対極の躁状態もあらわれ、これらを繰り返す、慢性の病気です。

昔は「躁うつ病」と呼ばれていましたが、現在では「双極性障害」と呼んでいます。経過の中で、30:1の割合でうつ状態とも言われ、うつ状態である期間が長いため、うつ病との鑑別が困難です。

 

なお、WHOによる最新の国際疾患分類であるICD-11では、「障害」という言葉が誤解を招く可能性があるとの考えから、新たに「双極症」という日本語訳が使われる予定です。

 

入院が必要になるほどの激しい興奮を起こすものを「躁状態」といいます。家庭や仕事に重大な支障をきたし、社会的後遺症を残してしまいかねないため注意が必要です。一方、周囲から見て、明らかにいつもと違っていて、気分が高揚し、眠らなくても平気で、仕事もはかどるけれども、本人も周囲の人もさほど困らない程度の状態を、「軽躁状態」といいます。この病態により双極性障害を2種類に分けられます。

 

双極Ⅰ型障害:ほとんどの場合、うつ状態ですが、前述の躁状態があれば、うつ状態がなくても双極Ⅰ型障害と診断されます。

双極Ⅱ型障害:「軽躁状態」と「うつ状態」の両方がおこるⅡ型双極性障害といいます。

どちらのタイプの双極性障害も治療しないでいると、躁状態とうつ状態を何度も繰り返し、その間に人間関係、社会的信用、仕事や家庭といった人生の基盤が大きく損なわれてしまいます。また精神運動興奮状態を繰り返すと、脳にダメージを受け、人格水準が低下することもあります。ただし双極性障害は精神疾患の中でも治療法や対処法が比較的整っている病気で、薬でコントロールすれば、それまでと変わらない生活を送ることが充分に可能です。

 

【有病率】

うつ病の生涯有病率は、15%と言われ、ありふれた病気です。一方、双極Ⅰ型障害を発症する人はおよそ1%前後、双極Ⅰ型、Ⅱ型の両方を含めると約3%と言われています。

単純計算でも、日本に数十万人の患者さんがいると見積もられますが、日本での本格的な調査は少なく、はっきりしたことはわかっていません。

 

前述のようにうつ病、適応障害と診断されていても、実は双極性障害であった患者様も多くみられ、海外では、うつ状態で病院に来ている方のうち、20~30%の方が双極性障害であると言われています。

 

【原因・発症の要因と、治療】

双極性障害の原因はまだ完全には解明されていません。

この病気は、精神疾患の中でも、もっとも身体的な側面が強い病気と考えられており、ストレスが原因となるような「心」の病気ではありません。精神分析やカウンセリングだけで根本的な治療をすることはできず、薬物療法が必要です。そして、薬物療法と合わせて、心理・社会的な治療が必要となります。

【治療法】

①薬物療法

双極性障害の治療・予防に有効な薬は、抗精神病薬と気分安定薬です。日本で用いられている気分安定薬には、リチウム、ラモトリギン、バルプロ酸、カルバマゼピンがあります。リチウム以外は、元々抗てんかん薬として使われていたものです。しかし催奇形性といい、妊婦さんに用いると、奇形のリスクになってしまうため、妊娠可能な年齢の女性に使用する場合は、十分な説明が必要です。

近年では、非定型抗精神病薬であるクエチアピン、オランザピン、アリピプラゾールも多く使われています。

気分安定薬(リチウム・バルプロ酸・ラモトリギン・カルバマゼピン)は副作用が多く、量の調節が難しい薬でもあります。具体的にはリチウム・バルプロ酸は肝機能障害、意識障害、口渇感などがあり、ラモトリギン・カルバマゼピンは皮膚症状で、時に重大な皮膚症状を起こすこともあります。そのためリチウムを飲む時は、血中濃度を測りながら使わなければいけません。特に飲み始めは血中濃度が不安定なので、短い間隔で定期的に血中濃度を調べます。

近年は、うつ状態、そう状態の時も、抗うつ薬はなるべく避け、非定型抗精神病薬(クエチアピン、オランザピン、アリピプラゾール)で治療します。アリピプラゾールは、月1回注射をすれば、内服の必要がない持続性筋注製剤もあります。

また抗うつ薬は、躁状態を引きおこすことがありますので、双極性障害の方は、できる限り避けた方が良いでしょう。

副作用のない薬はなく、双極性障害の治療薬は限られています。ちょっと副作用がでたからこの薬は合わない、とやめてしまうと、せっかく回復できる可能性があるのに、治るチャンスをみすみす失うことになりかねません。

薬をのまなければいけない、と思うのでなく、これまでに発見されてきた有効な薬をうまく活用しよう、と主体的に考えて、自分の病気のコントロールのために、どのように副作用と折り合いをつけながら治療していこうか、という姿勢で臨むと良いでしょう。

②心理療法

双極性障害は、単なる心の悩みではなく、カウンセリングだけで治ることはありません。しかし、病気をしっかり理解し、その病気に対する心の反応に目を配りつつ、治療がうまくいくように援助していく、「心理教育」は必須です。心理教育では、病気の性質や薬の作用と副作用を理解すると共に、再発の最初の徴候は何かを、自分と家族が把握し、共有することを目指します。

再発した時に最初にでる症状(初期徴候)は何なのかを話あって確認し、本人と家族で共有することが大事なのです。また再発のきっかけになりやすいストレスを事前に予測し、それに対する対処法などを学ぶのも良いでしょう。

 

③非薬物療法

双極性障害の治療においては、規則正しい生活を送ることも大切です。徹夜を避け、朝はしっかり日の光を浴び、散歩などの軽い運動するなどして、なるべく一定のスケジュールで生活し、気分が不安定な時は過度の社会的刺激を避けるなど、生活を工夫することによって、病気が安定化します。

【患者様へ】

うつ病の治療では、そのうつ状態を治すことが目標になり、多くの場合2年くらいで治療を終了することができます。一方、双極性障害の場合は、躁状態・うつ状態は多くの場合再発を繰り返すため、これを予防することが治療の目標になります。もし、躁状態、うつ状態が治ったからと言って、治療をやめてしまうと、再発を繰り返し、その結果、社会的なダメージが大きくなってしまいます。

双極性障害は、再発予防療法を続けることで、問題なく社会生活を送ることができる病気なのですが、躁状態でもうつ状態でもない、症状がすっかりおさまっている期間も、何も困っていないのに、長期にわたって薬を飲み続けるというのは、並大抵のことではありません。また自分に限ってそんな病気のはずはない、と否認したり、ショックを受けて、落ち込んだりした人もいることでしょう。

患者様自身が病気を受け入れ、主体的に再発予防に取り組み始めることができるかが、その後の人生を大きく変えることになります。双極性障害をうまくコントロールすれば、次第に、病気のことをあまり考えなくても、毎日の生活が楽しく送れるようになるようになると思います。

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