-精神科コラム- 2025年2月

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広場恐怖症 -2025年2月26日-

広場恐怖症は、特定の場所や状況に対する極度の恐怖を感じ、それにより日常生活に支障をきたす不安障害の一種です。広場恐怖症を持つ人は、逃げ出したり助けを求めるのが困難な状況や場所で強い恐怖や不安を感じます。この恐怖は、たとえば広い場所や人混み、公共の乗り物、または閉鎖された場所などで起こることが多く、発作的に強い不安を感じることもあります。

広場恐怖症の症状

広場恐怖症の主な症状は、特定の場所や状況に対する過剰な恐怖や不安です。この恐怖や不安は、以下のような場所や状況で引き起こされることが一般的です。

  • 公共交通機関(バス、電車、飛行機など)
  • 広い開けた場所(広場、駐車場、公園など)
  • 閉鎖された空間(映画館、エレベーター、ショッピングモールなど)
  • 人混みや行列
  • 自宅以外の場所で一人でいること

広場恐怖症の人は、これらの場所や状況に直面すると、極度の不安感や恐怖感を抱き、場合によってはパニック発作を引き起こすことがあります。パニック発作の症状には、心拍数の増加、発汗、息苦しさ、めまい、胸痛、震え、吐き気などが含まれ、死の恐怖や失神するのではないかという感覚に襲われることもあります。

広場恐怖症の患者は、恐怖を避けるために不安を引き起こす場所や状況を回避するようになります。重度の場合、家から出ることさえも避け、自宅に引きこもることが多くなります。これにより、仕事や学校、社会生活に重大な影響が生じ、日常生活が大きく制限されることになります。

広場恐怖症の原因

広場恐怖症の原因は複数の要因が関与していると考えられています。具体的には、以下のような要因が広場恐怖症の発症に影響を与える可能性があります。

  1. 遺伝的要因
    広場恐怖症や他の不安障害が家族内で見られる場合、遺伝的要因が関連している可能性が高いです。不安障害に関連する遺伝子の影響を受けやすい体質を持つ人は、広場恐怖症を発症しやすいとされています。

  2. 神経生物学的要因
    脳内の神経伝達物質、特にセロトニンやノルアドレナリンといった物質の不均衡が不安障害に関与していることが示されています。また、脳の恐怖や不安を処理する領域(扁桃体など)の過剰な反応も原因となる可能性があります。

  3. 心理的要因
    過去にトラウマティックな経験やストレスが多い出来事に遭遇した人は、広場恐怖症を発症するリスクが高まります。特に、パニック発作を経験した人は、その発作が起こった場所や状況を避けるようになり、広場恐怖症を発展させることがあります。

  4. 学習理論
    不安や恐怖を引き起こす状況を繰り返し避けることで、その状況に対する恐怖が強化されるという学習理論も広場恐怖症の一因として考えられています。避けることが一時的に不安を軽減するため、回避行動が強化され、結果として広場恐怖症が持続してしまいます。

広場恐怖症の治療法

広場恐怖症の治療は、薬物療法と心理療法の組み合わせが効果的です。治療の目的は、不安を軽減し、日常生活への支障を最小限に抑えることです。

1. 薬物療法

広場恐怖症に対しては、抗不安薬や抗うつ薬が処方されることがあります。主に使用される薬物は以下の通りです。

  • 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)
    パロキセチンやセルトラリンなどのSSRIは、不安やパニック発作を軽減する効果があります。SSRIは副作用が少なく、広場恐怖症の治療に広く使用されています。

  • ベンゾジアゼピン系抗不安薬
    一時的な不安軽減に有効ですが、長期間使用すると依存性が生じる可能性があるため、短期間の使用が推奨されます。

  • 三環系抗うつ薬
    以前から使われている抗うつ薬で、広場恐怖症にも効果がありますが、副作用が多いため、最近ではSSRIが優先的に使用されています。

2. 認知行動療法(CBT)

広場恐怖症の治療において、最も効果的な心理療法は**認知行動療法(CBT:Cognitive Behavioral Therapy)**です。CBTでは、不安や恐怖を引き起こす思考パターンを認識し、それを現実的な思考に置き換えることを目指します。また、曝露療法も含まれ、患者は段階的に恐怖を感じる状況に対して曝露され、少しずつその恐怖を克服していきます。

  • 曝露療法
    患者が不安を感じる場所や状況に段階的に曝露され、徐々にその場所や状況に慣れることで恐怖を克服します。例えば、公共交通機関が怖い場合、最初はバス停まで行くことから始め、次に短い距離をバスで移動し、最終的には長い距離を乗れるようになるまで訓練します。

3. 家族療法

家族が患者をサポートする方法も治療の一環です。広場恐怖症の人を理解し、適切なサポートを提供するために、家族療法が役立ちます。家族が患者の恐怖を助長することなく、適切に対応できるように教育することが大切です。

まとめ

広場恐怖症は、特定の場所や状況に対して過剰な恐怖や不安を抱く不安障害です。これにより、日常生活に大きな支障が生じることがあります。広場恐怖症は、薬物療法や認知行動療法を通じて効果的に治療できるため、早期の診断と治療が重要です。家族や専門家のサポートを得ながら、少しずつ不安を克服していくことが可能です。

強迫性障害 -2025年2月10日-

強迫性障害(Obsessive-Compulsive Disorder: OCD)は、反復的で持続的な思考(強迫観念)や行動(強迫行為)が特徴的な精神疾患です。この疾患は、疾患にとって非常に苦痛を伴い、日常生活や社会的な機能に深刻な影響を及ぼすことがあります。強迫性障害は、思考と行動が以上に繰り返されることにより、患者が不安や恐れを感じ、これを回避しようとすることでさらに脅迫行為を繰り返すという悪循環に陥ることが多いです。
強迫観念は、耐え難い不安を引き起こす思考やイメージであり、患者はその思考が無意味だと理解しているものの、制御できません。例としては、手を洗わないと病気になるのではないかという恐怖や、物が正しく並んでいないと不安になるといった内容が挙げられます。これらの思考が何度も頭に浮かび、消すことができないため、患者はこれを軽減するために強迫行為に頼りがちになります。
強迫行為は、強迫観念から生じる不安を和らげるために行われる反復的な行動です。例えば、手を何度も洗う、物を決まった順番で並べる、ドアの鍵を何度も確認するなどの行為が含まれます。患者はこれらの行為を繰り返すことで不安を軽減しようとしますが、行動の結果は一時的なものであり、長期的には症状が改善することはありません。
強迫性障害は、遺伝的要因、神経化学的要因、環境的要因が相互に作用して発症すると考えられています。セロトニンという神経伝達物質の異常が関連しているとされています。加えて、過去のストレスやトラウマ、家庭環境も発症に影響を与える可能性があります。
強迫性障害の影響は、患者自身の生活だけでなく、周囲の人々にも及びます。強迫行為の頻度や時間が増えると、仕事や学校、家庭内での役割を果たすことが困難になることがあります。患者は自己評価が低くなることがあり、社会的孤立やうつ病など、他の精神的問題を引き起こすこともあります。

治療を受けることが重要であり、早期の介入が症状の軽減に寄与します。強迫性障害は治療可能であることが多いですが、完治には時間と努力が必要です。

診断基準(DSM-5)

強迫性障害の診断は、精神障害の診断と統計マニュアル第5版(DSM-5)に基づきます。以下はその主な診断基準です。

  1. 強迫観念

    • 患者は、反復的で持続的な思考、衝動、またはイメージに苦しんでいます。これらは不快であり、患者はそれを抑制しようと試みますが、制御できません。例えば、「汚れた手で物を触ると病気になる」などの恐怖心が強迫観念として現れます。
    • 患者は自分の強迫観念が過剰で無意味であることを認識していますが、依然としてその思考が続きます。
  2. 強迫行為

    • 患者は強迫観念に伴う不安を軽減するため、またはその予防を目的として、反復的な行動(手洗いや物の並べ方など)を行います。これらの行動は現実的な解決に結びつくことは少ないですが、患者はそれを行うことで不安を和らげようとします。
  3. 苦痛や障害

    • 強迫観念や強迫行為が1日を通して多くの時間を占める場合、または日常生活に大きな支障をきたしている場合、患者は顕著な苦痛を感じます。強迫行為に多くの時間を費やすことで、仕事や学校、家庭での役割を果たせなくなることがあります。
  4. 他の原因によるものではない

    • 強迫性障害は、他の精神疾患(例えば、統合失調症など)や薬物の影響によるものではないことが確認されます。

治療法

強迫性障害の治療には、主に薬物療法と心理療法が用いられます。多くの場合、両者を組み合わせることで効果が高まります。

  1. 薬物療法

    • 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI):これらの薬は強迫性障害に対して効果があるとされています。代表的な薬にはフルオキセチン(プロザック)、フルボキサミン(ルボックス)、セルトラリン(ジェイゾロフト)などがあります。これらの薬は脳内のセロトニンの再取り込みを抑制し、強迫観念や強迫行為を軽減します。
    • 抗うつ薬(TCA):トリシクル抗うつ薬(TCA)も、特にクロミプラミン(アナフラニール)が有効です。これもセロトニンのバランスを調整する薬で、強迫症状の軽減に効果があります。
    • 薬物の選択は、患者の状態や副作用のリスクを考慮して行われます。薬物療法は、症状の改善には数週間かかることが多いため、根気よく続けることが必要です。
  2. 心理療法

    • 認知行動療法(CBT):強迫性障害に非常に効果的な治療法で、患者が自身の強迫観念に直面し、強迫行為を抑制する訓練を行います。特に**曝露反応妨害法(ERP)**が有名です。ERPでは、患者が強迫観念を引き起こす状況に少しずつ曝露され、その不安を軽減し、強迫行為を行わないようにします。これにより、強迫行為の頻度を減少させ、現実的な思考に至ることを目指します。
    • 認知療法:患者が強迫観念の非現実的な側面を認識し、その認知を修正していく方法です。強迫観念に対する恐怖心や不安を減らし、思考の柔軟性を高めます。
  3. その他の治療法

    • 深部脳刺激(DBS):これは重度の強迫性障害患者に対して、他の治療が効果を示さない場合に用いられることがあります。脳の特定の部位に電気的刺激を与えることで、症状の改善を図る治療法です。
    • 家族療法:強迫性障害を持つ患者を支えるために、家族が治療に関わることも有益です。患者に対する理解やサポートを深めるために、家族に適切な情報を提供することが重要です。

治療のアプローチ

治療は個々の患者に応じて調整され、薬物療法と心理療法の併用が一般的です。治療が早期に開始されると、症状の軽減が期待でき、社会的機能を改善することができます。治療には時間がかかることがあり、患者の忍耐と支援が求められます。また、再発を防ぐために長期的なフォローアップが重要です。

社交不安障害 -2025年2月4日-

社会不安障害は、人からの注目や人と接することへの緊張が過度となり、心身や生活に様々な支障がおよぶ病気です。

人前でまったく緊張しない人はめったにいませんし、人前が苦手、緊張しやすい等のシャイな性格傾向がある人は多いです。ですがその苦痛が強いと感じる場合には、それは自然な緊張や性格ではなく、社会不安障害という病気の「症状」の可能性があります。

この病気では、苦手な社会シーンになると、

l  緊張のあまり手がふるえる

l  冷汗が大量に出る

l  声が上ずってしまう

l  頭が真っ白になる

 

といった自律神経症状が伴い、元々感じている苦手意識の上に「こんな反応をしておかしい奴と思われていないだろうか?」「相手が不快に感じてはいないだろうか?」といった思考からエスカレートしてしまいます。

社会不安障害の方が苦手意識を感じやすい社会シーン

l  人前で話す、発表をする、プレゼンなど

l  人との雑談

l  人目に触れる場所での飲食、会食

l  人前で字を書く

l  電話対応

 

不安や緊張でおこりやすい自律神経症状の例は、赤面が特徴です。

そのほかでも、

l  動悸

l  息苦しさ

l  めまいや吐き気

l  手足がふるえる

l  ひどく汗をかく

 

社会不安障害は「性格」ではありません。

このような社会不安障害ですが、本人や周りが「性格」ととらえていることが非常に多いです。生きづらさは感じながらも、性格だから仕方がないと割り切っている方も少なくありません。

「ビビり」や「緊張しい」といった性格と思い込んでいることが多いです。人前に立つ機会を避けてしまったり、職業選択などにも影響することもあります。

また「人見知り」や「引っ込み思案」な性格と思い込んでいることが多いです。不安や恐怖を感じることはできるだけ避けて生活をするようになり、ひきこもりや不登校といった形で、生活に影響が出てくることもあります。
このように社会不安障害は、性格ではなく症状と考えて治療をしていくことで、生き方が変わる可能性を秘めている病気です。

【社会不安障害の診断基準(DSM-5)】

DSM-5の『社会不安障害・社会恐怖』の診断基準は以下のようになっている。 

  • 他の人からの詮索の対象となりそうな社会生活場面で起こる顕著な恐怖・不安で、そのような場面が1つあるいはそれ以上ある。例として、対人交流場面(会話・あまり親しくない人との雑談)、人目を引く場面、人前での行動場面(他人の前での板書・発言・飲食など)。子供の場合は、常に不安は同世代の仲間といる時に起こり、大人の中では起こらない。
  • 自分の取る行動や不安な態度が変に思われるのを恐れる。(例えば、恥ずかしく感じたり、誰かに恥ずかしい思いをさせる。他人から拒絶・嘲笑されたり、誰かに不快感・苛立ちを与えるなど)
  • その社会生活場面はほとんど常に恐怖や不安を引き起こす。
    子供の場合は、恐怖・不安は泣く、癇癪を起こす、しがみつく、竦む、震える、言葉がでないなどで表現されることが多い。
  • その社会生活場面を回避する、あるいは強い恐怖や不安を持ちながらひたすら我慢する。
  • 恐怖や不安は、その社会生活場面が持つ実際の脅威やその社会の文化的文脈にそぐわない。
  • 恐怖、不安、あるいは回避は一般には6ヶ月以上続く。
  • 恐怖、不安、あるいは回避は臨床的に大きな苦痛であり、また、社会上や職業上、あるいは他の重要な領域の機能の妨げとなる。
  • 恐怖、不安、回避は物質(依存性薬物・医薬品)による生理学的反応や他の身体疾患によるものではない。
    他の身体疾患(例えば、パーキンソン病、肥満、火傷や外傷による傷跡)が存在しても、恐怖、不安、回避はそれとは関係せず、その症状が顕著である。

【社交不安障害の治療】
社会不安障害の治療は、生活への支障の大きさをもとに大きく2つの方針にわかれます。

l  レスキューのお薬でしのいでいく

l  お薬をしっかりと使って精神療法を積み重ねていく

 

苦手な状況だけしのげるようにするというのも一つの考え方です。
しかしながら不安の頻度が多かったり、生き方に影響している場合は、しっかりとお薬を使って治療を進めていった方が良いと思います。社交不安障害は治療のできる病気です。治療によって長年の苦痛や不自由から解放され、人生の流れが大きく変わっていく患者さんもいます。
社会不安障害はお薬の効果も期待することができます。お薬によってつらい症状がコントロールできるようになると、少しずつ苦手なシーンに挑戦し、上手な不安との付き合い方を身につけていく精神療法を重ねていきます。そして生活習慣が乱れると症状が悪化しやすいので、生活習慣を整える努力も必要です。

社会不安障害の治療には、ある程度の時間や積み重ねが必要です。同じ社交不安障害であっても、目指すゴールは人によって違います。それぞれの性格、生活環境、重症度などに合わせ、無理のない範囲で焦らず治療を続けていくことが克服の大きなポイントです。

  抗うつ剤(SSRI)

社交不安障害では偏桃体の働きを正常化させるために、セロトニンを増加させる作用の強い抗うつ剤が使われます。抗うつ剤はいずれもセロトニンを増加させる作用がありますが、とくにSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)というお薬が良く使われます。

l  パキシル(一般名:パロキセチン)

l  ジェイゾロフト(一般名:セルトラリン)

l  レクサプロ(一般名:エスシタロプラム)

l  ルボックス/デプロメール(一般名:フルボキサミン)

②抗不安薬

効果の実感までに時間のかかる抗うつ剤に対し、抗不安薬では即効性が期待できます。不安や緊張を落ちつける効果が期待できます。
このため、不安が強まった時のお守りとしても使われますし、抗うつ剤の効果が出てくるまでの間の症状を緩和させるために使われます。

即効性を期待する場合によく使われるのは、

l  リボトリール/ランドセン(一般名:クロナゼパム)

l  レキソタン(一般名:ブロマゼパム)

l  デパス(一般名:エチゾラム)

l  ワイパックス(一般名:ロラゼパム)

l  ソラナックス/コンスタン(一般名:アルプラゾラム)

になります。

  精神療法

お薬の治療によって不安や恐怖、身体の症状がある程度コントロールできるようになると、不安と上手に付き合うための精神療法を積み重ねていくことが必要になります。

苦手意識や回避の行動パターンは長年積み重ねられたものなので、すぐにはよくなりません。お薬でコントロールしながら、少しずつそれを当たり前にしていきます。

社交不安障害の人は根本的に「より良く生きたい」「多くの人に認められる存在でありたい」という高い欲求を持っていたり、周囲との調和を重視したりする性格が下地にあることが多く、その分社交の場で緊張がかかりやすい傾向があります。

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