-精神科コラム- 2025年2月

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社交不安障害 -2025年2月4日-

社会不安障害は、人からの注目や人と接することへの緊張が過度となり、心身や生活に様々な支障がおよぶ病気です。

人前でまったく緊張しない人はめったにいませんし、人前が苦手、緊張しやすい等のシャイな性格傾向がある人は多いです。ですがその苦痛が強いと感じる場合には、それは自然な緊張や性格ではなく、社会不安障害という病気の「症状」の可能性があります。

この病気では、苦手な社会シーンになると、

l  緊張のあまり手がふるえる

l  冷汗が大量に出る

l  声が上ずってしまう

l  頭が真っ白になる

 

といった自律神経症状が伴い、元々感じている苦手意識の上に「こんな反応をしておかしい奴と思われていないだろうか?」「相手が不快に感じてはいないだろうか?」といった思考からエスカレートしてしまいます。

社会不安障害の方が苦手意識を感じやすい社会シーン

l  人前で話す、発表をする、プレゼンなど

l  人との雑談

l  人目に触れる場所での飲食、会食

l  人前で字を書く

l  電話対応

 

不安や緊張でおこりやすい自律神経症状の例は、赤面が特徴です。

そのほかでも、

l  動悸

l  息苦しさ

l  めまいや吐き気

l  手足がふるえる

l  ひどく汗をかく

 

社会不安障害は「性格」ではありません。

このような社会不安障害ですが、本人や周りが「性格」ととらえていることが非常に多いです。生きづらさは感じながらも、性格だから仕方がないと割り切っている方も少なくありません。

「ビビり」や「緊張しい」といった性格と思い込んでいることが多いです。人前に立つ機会を避けてしまったり、職業選択などにも影響することもあります。

また「人見知り」や「引っ込み思案」な性格と思い込んでいることが多いです。不安や恐怖を感じることはできるだけ避けて生活をするようになり、ひきこもりや不登校といった形で、生活に影響が出てくることもあります。
このように社会不安障害は、性格ではなく症状と考えて治療をしていくことで、生き方が変わる可能性を秘めている病気です。

【社会不安障害の診断基準(DSM-5)】

DSM-5の『社会不安障害・社会恐怖』の診断基準は以下のようになっている。 

  • 他の人からの詮索の対象となりそうな社会生活場面で起こる顕著な恐怖・不安で、そのような場面が1つあるいはそれ以上ある。例として、対人交流場面(会話・あまり親しくない人との雑談)、人目を引く場面、人前での行動場面(他人の前での板書・発言・飲食など)。子供の場合は、常に不安は同世代の仲間といる時に起こり、大人の中では起こらない。
  • 自分の取る行動や不安な態度が変に思われるのを恐れる。(例えば、恥ずかしく感じたり、誰かに恥ずかしい思いをさせる。他人から拒絶・嘲笑されたり、誰かに不快感・苛立ちを与えるなど)
  • その社会生活場面はほとんど常に恐怖や不安を引き起こす。
    子供の場合は、恐怖・不安は泣く、癇癪を起こす、しがみつく、竦む、震える、言葉がでないなどで表現されることが多い。
  • その社会生活場面を回避する、あるいは強い恐怖や不安を持ちながらひたすら我慢する。
  • 恐怖や不安は、その社会生活場面が持つ実際の脅威やその社会の文化的文脈にそぐわない。
  • 恐怖、不安、あるいは回避は一般には6ヶ月以上続く。
  • 恐怖、不安、あるいは回避は臨床的に大きな苦痛であり、また、社会上や職業上、あるいは他の重要な領域の機能の妨げとなる。
  • 恐怖、不安、回避は物質(依存性薬物・医薬品)による生理学的反応や他の身体疾患によるものではない。
    他の身体疾患(例えば、パーキンソン病、肥満、火傷や外傷による傷跡)が存在しても、恐怖、不安、回避はそれとは関係せず、その症状が顕著である。

【社交不安障害の治療】
社会不安障害の治療は、生活への支障の大きさをもとに大きく2つの方針にわかれます。

l  レスキューのお薬でしのいでいく

l  お薬をしっかりと使って精神療法を積み重ねていく

 

苦手な状況だけしのげるようにするというのも一つの考え方です。
しかしながら不安の頻度が多かったり、生き方に影響している場合は、しっかりとお薬を使って治療を進めていった方が良いと思います。社交不安障害は治療のできる病気です。治療によって長年の苦痛や不自由から解放され、人生の流れが大きく変わっていく患者さんもいます。
社会不安障害はお薬の効果も期待することができます。お薬によってつらい症状がコントロールできるようになると、少しずつ苦手なシーンに挑戦し、上手な不安との付き合い方を身につけていく精神療法を重ねていきます。そして生活習慣が乱れると症状が悪化しやすいので、生活習慣を整える努力も必要です。

社会不安障害の治療には、ある程度の時間や積み重ねが必要です。同じ社交不安障害であっても、目指すゴールは人によって違います。それぞれの性格、生活環境、重症度などに合わせ、無理のない範囲で焦らず治療を続けていくことが克服の大きなポイントです。

  抗うつ剤(SSRI)

社交不安障害では偏桃体の働きを正常化させるために、セロトニンを増加させる作用の強い抗うつ剤が使われます。抗うつ剤はいずれもセロトニンを増加させる作用がありますが、とくにSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)というお薬が良く使われます。

l  パキシル(一般名:パロキセチン)

l  ジェイゾロフト(一般名:セルトラリン)

l  レクサプロ(一般名:エスシタロプラム)

l  ルボックス/デプロメール(一般名:フルボキサミン)

②抗不安薬

効果の実感までに時間のかかる抗うつ剤に対し、抗不安薬では即効性が期待できます。不安や緊張を落ちつける効果が期待できます。
このため、不安が強まった時のお守りとしても使われますし、抗うつ剤の効果が出てくるまでの間の症状を緩和させるために使われます。

即効性を期待する場合によく使われるのは、

l  リボトリール/ランドセン(一般名:クロナゼパム)

l  レキソタン(一般名:ブロマゼパム)

l  デパス(一般名:エチゾラム)

l  ワイパックス(一般名:ロラゼパム)

l  ソラナックス/コンスタン(一般名:アルプラゾラム)

になります。

  精神療法

お薬の治療によって不安や恐怖、身体の症状がある程度コントロールできるようになると、不安と上手に付き合うための精神療法を積み重ねていくことが必要になります。

苦手意識や回避の行動パターンは長年積み重ねられたものなので、すぐにはよくなりません。お薬でコントロールしながら、少しずつそれを当たり前にしていきます。

社交不安障害の人は根本的に「より良く生きたい」「多くの人に認められる存在でありたい」という高い欲求を持っていたり、周囲との調和を重視したりする性格が下地にあることが多く、その分社交の場で緊張がかかりやすい傾向があります。

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