-精神科コラム- 2025年1月

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オレキシン受容体拮抗薬(睡眠薬) -2025年1月30日-

オレキシン受容体拮抗薬は、オレキシンという神経伝達物質の働きをブロックする薬です。オレキシンは、睡眠と覚醒を調節する役割を果たしており、特に覚醒状態を促進する作用があります。このため、オレキシン受容体拮抗薬は、睡眠障害、特に不眠症の治療に使用されることがあります。

主な作用

オレキシン受容体拮抗薬は、オレキシンが結びつくオレキシン受容体(オレキシン1受容体とオレキシン2受容体)をブロックします。これにより、オレキシンの覚醒を促進する作用が抑えられ、眠気が引き起こされやすくなり、睡眠を助ける効果があります。

メカニズム

オレキシン(またはヒポクレチン)は、覚醒を維持する役割を持つ神経伝達物質です。脳内でオレキシンは、オレキシン1受容体(OX1R)およびオレキシン2受容体(OX2R)という受容体に結合して働き、覚醒状態を維持します。オレキシン受容体拮抗薬はこれらの受容体をブロックすることによって、オレキシンの覚醒を促進する作用を抑え、自然な睡眠を誘発します。

具体的には、オレキシン受容体拮抗薬は、オレキシン1および2受容体に結合し、その信号伝達を遮断することで、睡眠を促進し、覚醒状態からの移行を助けます。この作用により、特に夜間に眠りやすくなります。

副作用

オレキシン受容体拮抗薬は比較的安全な薬とされていますが、眠気や頭痛、めまい、口渇などの副作用が出ることもあります。長期使用しても問題ないとされています。

スボレキサント(suvorexant)

スボレキサント(商品名:ベルソムラ)は、オレキシン受容体拮抗薬の代表的な薬です。スボレキサントは、オレキシン1受容体(OX1R)とオレキシン2受容体(OX2R)の両方に作用する薬です。

  • 作用機序: スボレキサントは、オレキシン1およびオレキシン2受容体を競合的にブロックすることで、オレキシンの作用を抑えます。これにより、覚醒状態が抑制され、眠気が促進されます。
  • 使用目的: 不眠症の治療に用いられ、特に入眠困難や睡眠維持の問題を持つ患者に効果があります。効果は比較的穏やかで、依存症のリスクが低いとされています。
  • 副作用: 眠気、頭痛、めまい、吐き気、倦怠感などがありますが、長期的な使用に関するデータは十分でないため、注意が必要です。

レンボレキサント(lemborexant)

レンボレキサント(商品名:デエビゴ)は、スボレキサントと同様にオレキシン受容体拮抗薬であり、オレキシン受容体1および2に作用します。しかし、スボレキサントと比べて、レンボレキサントは受容体に対する親和性や作用の持続時間にいくつかの違いがあります。

  • 作用機序: レンボレキサントもオレキシン1および2受容体を競合的にブロックすることによって、オレキシンの働きを抑制し、眠気を引き起こします。スボレキサントと同様、眠りを助ける働きがあります。
  • 使用目的: 不眠症の治療に使用され、特に入眠困難や夜間の目覚めに悩んでいる患者に効果的です。スボレキサントに似た作用を持ちながら、少し異なる薬理特性があります。
  • 副作用: 眠気、頭痛、倦怠感、吐き気、めまいなどがありますが、依存性や乱用のリスクは低いとされています。

スボレキサントとレンボレキサントの違い

  1. 作用の持続時間:
    • スボレキサントは比較的長時間作用する一方、レンボレキサントは作用がやや短く、速やかに効果が現れる特徴があります。
  2. 親和性の違い:
    • 両薬剤はオレキシン1およびオレキシン2受容体に結合して作用しますが、レンボレキサントはスボレキサントと比べて、オレキシン2受容体に対する親和性がわずかに高いとされています。

不安障害(不安症) -2025年1月22日-

不安障害(不安症)とは、分かりやすくいうと強い不安感や恐怖心によって、生活に支障がでている状態をいいます。不安障害の症状の表れ方はさまざまです。例えば「人前でスピーチをしようとすると、身体が震えて話せなくなる」といった症状が挙げられます。

不安障害は、決して本人の努力不足や甘え、性格によって引き起こされるものではありません。
職場や日常のさまざまな場面で不安を感じる症状が表れます。また、会社や家庭のことだけでなく、例えば、自然災害や紛争など、自分に直接関係すること以外も含めて、あらゆるものが不安の原因となることがあります。 

不安障害(不安症)につながる要因といわれているものを「身体的な状態」「精神的な状態」に分けて紹介します。

 

身体的な状態

身体的な疾患やそれに伴う薬の使用など、身体的な状態が影響して不安障害(不安症)が発症することがあるといわれています。

身体的な疾患としては「心不全」「不整脈」などの心臓の疾患や、ホルモン(内分泌系)の疾患、喘息などの呼吸器系の疾患などがあります。また、さまざまな疾患に対して薬の使用や、薬を中止したときの離脱症状によっても不安が生じる可能性が考えられています。

 

精神的な状態

何かストレスとなる出来事や場面に遭遇して、強く不安を感じることが多いなど、精神的な状態も不安障害(不安症)の要因になると考えられています。
ストレスは人前で話すといった日常的に感じることもあれば、災害など大きな出来事に遭遇して強く感じることもあります。しかし、同じ場面でもどの程度不安を感じるかは人それぞれ異なっています。人前で話すことに強い不安を覚える方もいれば、逆に楽しみを感じる方もいます。
そういった場面に慣れることや対処法を身につけていくことによっても変わってくるでしょう。

【全般不安症の診断基準】

全般不安症では、日常生活の多くの出来事、または活動において、まだ起きてもいないうちから、過剰な不安や心配を感じる状態となります。
この時、焦燥、注意散漫、集中困難、緊張、疲労、易怒性、睡眠障害などの症状がみられ、社会生活や職業生活に問題が生じることがあります。また、その状態が6ヶ月以上続きます。

 

薬物療法

不安障害(不安症)の発症には、うつ病と同じく「セロトニン(脳内の神経伝達物質)」が、影響しているといわれています。
そのため、薬物療法では抗うつ剤や抗精神病薬が使われます。

 

精神療法

精神療法によって、柔軟な思考ができるようになることで、ストレスや不安を和らげる効果に期待できます。

 

【不安障害(不安症)の対処法や対策は?】

1,医師へ相談する

かかりつけの医師に、日常生活や症状のことだけでなく「どのような仕事をしているのか?」や「職場の環境について」なども伝えておくことをおすすめします。また「話を聞いてもらっている」という状況が、不安を減らすことへもつながるため、気になることがあった場合は医師に相談してみるといいでしょう。

2.生活習慣を見直す

栄養バランスを考えた食事や十分な睡眠、適度な運動などは、身体だけでなく心を整えるためにも大切な要素です。とくに、生活リズムが乱れてしまうと、夜に眠れなくなったり、体調が悪くなったりする可能性があるため要注意です。
食事の時間や睡眠時間はなるべく一定に保つように心掛けましょう。

3.リラックス方法を見つけておく

少しでも「不安な状態になりそう」と感じたら、すぐにリラックス方法を実践しましょう。
例えば「深呼吸をする」「ストレッチをする」などが挙げられます。とくに深い呼吸は、リラックスに影響する副交感神経の働きを良くする効果があるため、日常的に取り入れるとよいでしょう。

アルコールとメンタル疾患 -2025年1月15日-

あけましておめでとうございます。
年末年始、ゆっくり過ごせましたでしょうか?今回はアルコールの話になります。
アルコールとメンタル疾患の関係は、非常に複雑で多面的です。アルコールは一時的に気分を高揚させることがありますが、長期的に見ると精神健康に深刻な影響を及ぼすことがあります。そのため、アルコールとメンタル疾患の関連について説明します。

1. アルコールとメンタル疾患の関係

アルコールは中枢神経系に作用し、リラックス感や一時的なストレス解消をもたらすことがあります。しかし、過度の飲酒や長期間のアルコール依存は、精神疾患を引き起こすリスクを高めることが研究で示されています。アルコールが精神状態に与える影響は、個人差がありますが、いくつかの主要な精神疾患との関連が指摘されています。

2. アルコール依存症とメンタル疾患

アルコール依存症は、精神疾患の一つであり、アルコールを過度に摂取し続けることで身体的、心理的な依存が生じます。アルコール依存症は、うつ病や不安障害、精神的な健康問題を引き起こす要因となることがあります。アルコール依存症を持つ人々は、精神的な健康問題に対処するためにアルコールを使う場合もありますが、アルコール自体が精神疾患のリスクを高めることが分かっています。

3. アルコールとうつ病

アルコールと最も関連の深い精神疾患の一つがうつ病です。アルコールは脳内の神経伝達物質に影響を与え、長期的な飲酒は神経機能を低下させる可能性があります。これがうつ症状を引き起こしたり、既存のうつ病を悪化させる原因となることがあります。アルコールを過剰に摂取することで、一時的に気分が良くなったように感じても、翌日に落ち込むことが多く、そのためうつ病の症状が進行することがあります。

4. アルコールと不安障害

不安障害は、アルコールと関連が深いもう一つの精神疾患です。アルコールは一時的に不安感を和らげることがありますが、アルコールが体内で分解されると、逆に不安を引き起こすことが多くあります。アルコール依存症のある人々は、アルコールを摂取することで一時的に不安感を解消しようとする一方で、長期的には不安症状が悪化することが一般的です。

5. アルコールとその他の精神疾患

アルコールはまた、精神的な障害を引き起こすその他の要因と相互作用することがあります。例えば、統合失調症などの重篤な精神病の場合、アルコールの摂取は症状を悪化させる可能性があります。さらに、アルコールと睡眠障害も関連があり、アルコールによって睡眠の質が低下し、精神的な疲労感やストレスが増大することがあります。

6. アルコールとメンタル疾患の治療

アルコール依存症と精神疾患の治療は、個別に行うことが一般的ですが、双方を考慮した統合的な治療が必要です。薬物療法や認知行動療法、グループ療法などが有効です。特に、精神疾患とアルコール依存症が同時に存在する場合には、治療のアプローチが一層重要になります。アルコールを止めることが精神疾患の症状を軽減する場合もありますし、逆に精神疾患の治療がアルコールの摂取を減少させる場合もあります。

7. 予防と支援

アルコールと精神疾患の予防には、早期の支援が重要です。アルコールを過度に摂取している段階で、専門家によるカウンセリングや支援が効果的です。また、ストレス管理や健康的なライフスタイルを促進することで、アルコールの摂取を控えることができます。家族や友人の支援も重要で、アルコール依存症の早期発見と介入が、精神的な問題の予防に役立ちます。

【まとめ】
アルコールと精神疾患は密接に関しており、過度な飲酒は精神健康を悪化させることがあります。アルコール依存症やうつ病、不安障害の精神疾患を発症するリスクが高まるため、早期予防と適切な治療が重要です。
そのためは、普段からアルコールの摂取量を管理し、場合によっては必要な支援をうけることも重要です。

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