-精神科コラム- 2024年10月

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産後うつ -2024年10月28日-

産後うつとは、出産後数か月以内に発生するうつ病です。
多くの女性は、出産後の経過が正常な場合でも何らかの精神的な変調を経験します。ホルモンの急激な変化、出産そのものによるストレスや疲労など、女性が“母になる”変化を経験します。このため、出産後の女性の約3050%は、産後25日ごろに涙もろさや不安定な気分、抑うつ、イライラなどを経験しますが、多くの場合一過性で自然に軽快します。しかし抑うつ気分や過度の不安などが2週間以上続く場合は、産後うつ病の可能性があります。
日本では出産を経験した女性の約 10% が産後うつ病を発症するといわれており、出産期に見逃してはならない病気の 1 つです。

【症状】
産後うつ病は産後23週間~3か月の間に発症しやすいとされています。“授乳がうまくいかず母親失格だと思う”、“周囲のサポートが乏しく疲労がたまり、睡眠不足が連続した”などの状況が重なり症状が現れる場合もあります。

l  産後うつ病では以下のような症状がみられます。

l  寝ようと思っても眠れない

l  食欲がなくなり体重の減少がみられる

l  抑うつ気分

l  興味または喜びの喪失

l  集中力の低下

l  気力の減退

l  決断が困難

l  赤ちゃんがかわいいと思えない

l  消えてしまいたいと感じる(自殺念慮)

赤ちゃんのお世話や家事ができなくなったり、自殺念慮が現れたりする場合は、ためらわずに精神科や心療内科など専門科への相談や受診を検討し、治療を受けることが必要です。

【原因】
産後うつは、さまざまな要因が重なって発症するといわれていますが、原因ははっきりと解明されていません。しかし、最近の研究などによって以下の3つが大きく影響しているのではないかといわれています。 

l  肉体的、精神的ストレス

l  周囲のサポート不足

l  妊娠期または過去のうつ病経験

特に産後は、ホルモンバランスの急激な変化によりストレスに耐える脳の働きが低下し、物事を悪い方向に考えてしまいやすくなるといわれています。その結果、「親ならやらなければならない」とひとりで抱え込むなどといった悪循環に陥ってしまうこともあります。

【治療】

産後うつ病の治療は、薬物療法と精神療法が主体となります。
母乳育児中の服薬については、服薬によるメリットや、母乳や乳児への薬物の移行、母乳育児の負担などを総合的に判断して方針を決定します。母乳育児中の薬物療法への抵抗から精神科受診をためらう方もいますが、母乳移行が少ないタイプの薬剤や、医師や臨床心理士によるカウンセリングなどの治療もあります。本人が受診の判断をできない場合、家族のすすめで受診につながることもあります。

1.カウンセリングによる精神療法(心理療法)
産後うつの治療法として、カウンセリングによる精神療法(心理療法)が有効です。心理療法では、現状を本人や家族にヒアリングし、ネガティブな思考を生む根源となっている事柄を特定します。現状を把握したうえで、改善する方法をアドバイスします。 

2.抗うつ薬などを用いた薬剤療法
産後うつと診断され、医師が必要と判断した場合、薬剤療法による治療がおこなわれます。また症状によっては、不安を軽減させる抗不安薬や睡眠導入剤が使用されることもあるでしょう。

ただし、授乳の問題もあるため、本人や家族と相談のうえ、納得したうえで薬剤治療を受けることが大切です。

薬の効果や副作用には個人差があるため、服用中は医師と相談しながら適切な薬剤治療を受けることが大切です。授乳中でも使用できる薬剤もあるため、専門の医師とよく相談して治療を進めましょう。

薬の内服中に注意したいのが、自己判断での休薬です。特に抗うつ薬は、自己判断で辞めてしまうと症状が悪化してしまう可能性があるため注意が必要です。

3.ストレスを減らすための環境調整

産後うつの方に対して、日常生活のストレスや育児の負担を減らすことは必要不可欠です。産後うつの治療法のひとつとして、こうした負担を軽減し、メンタルヘルスを維持するための環境調整がおこなわれます。

産後うつに対する環境調整では、以下の3つの視点を重視しています。

l  親の負担を減らすこと

l  いつでも相談できる環境をつくること

l  休息できる環境をつくること

これらのポイントを踏まえ、できるだけストレスを軽減できるように環境を整えていきましょう

職業性うつ -2024年10月21日-

仕事でのストレスを機に、うつ病になってしまう方はたくさんいます。
仕事のストレスと一言で言っても、さまざまなタイプがあります。自分のストレスをしっかりと見えるようにすると、それだけで良くなっていく方もいます。そのため、最初は原因を考えていきます。

【仕事のストレスによる影響】
ストレスは「変化の大きさ」が最も影響を与えます。

ストレスの影響力=ストレス強度×持続時間×頻度×変化


これらの4つの要素のうち、もっとも影響が大きいものは、「変化」です。人は変化にとても弱いです。昇進や昇給、希望する部署への異動などプラス要素の変化も、時にストレスになります。良くも悪くも、変化することは全て「ストレス」なのです。

人は、ストレスを受けると三段階の反応をとります。

第一段階は警告反応期です。ストレスを受けると、そのショックから一時的に身体の機能が低下しますが、抗ストレスホルモンが分泌され、身体の機能を活発化させることで身を守ろうとします。

第二弾階の抵抗期です。長引くストレスに身体が抵抗し、普段よりも抵抗力が強くなっている状態です。

第三段階は疲憊期(ひはいき)です。長期にわたってストレスを受け続けた結果、身体が疲労困憊してしまった状態です。ここまでくると抵抗力が下がり、睡眠や食事などの生活リズムも乱れ、身体機能が低下していきます。

このようにして、うつ病などにつながっていきます。


【4つのポイント】

量的負担・質的負担・社外の人間関係・社内の人間関係の4つのポイントで考えていきましょう。
自分がどのようなことにストレスを感じているのか、はっきりさせるだけでも意味があります。全体像がみえると、それだけで楽になります。自分のストレスを、自分で把握することにも意味があります。

【仕事のストレス(量的負担)】
仕事の量が増えてくると、ストレスになります。ですが、純粋に仕事量が多い=ストレスが多いというわけではありません。

まず、客観的な業務量は、純粋にトータルの業務量の多さです。同僚などと比較すれば、その業務量が多いかどうかは見えてくるかと思います。

また業務量の多さは純粋に量だけでなく、主観的にも変わってきます。楽しいと感じていれば、業務量は少なく感じます。単調な作業は、客観的な業務量以上に負担が大きいです。また、自分のキャパが小さい方と大きい方では、同じ業務量でもストレスへのとらえ方がかわります。

さらには、職場内での業務量の比較も影響します。人はどうしても比較をしてしまいます。同じ境遇の中で、自分より辛い人をみれば、「自分はマシだ」と思えます。反対に、自分より周囲が楽をしていれば、「自分の待遇がよくない」と、よりストレスが増します。

そして、ストレスに影響のもっとも多いのが変化です。納期の都合や季節性に業務が変化すると、オンとオフの差が激しくなります。その変化についていかなければいけません。

休みをとることもストレスの軽減になります。休めるかどうかよりも重要なのが、休みを取りやすい環境かどうかです。休みにくい中で無理やり休むと、しっかり休まりませんよね。

【仕事のストレス(質的負担)】
仕事の中身もストレスには重要です。仕事の質的負担にはどのようなものがあるでしょうか。

責任の大きさは、失敗できないという管理職には、プレッシャーがかかります。扱う金額が大きい、自分が意思決定をしなくてはいけない、などいろいろな仕事の責任に伴うプレッシャーがあります。

自分の仕事をどれくらい裁量権をもてるかどうかは、ストレスに大きな影響があるといわれています。要は、自分のやり方で仕事をすすめられていればストレスは感じにくいということです。これは管理職より一般社員の方がストレスを感じやすい部分です。


具体的には経験が少なく慣れない業務ですと、仕事の効率はどうしても落ちてしまいます。達成感が得にくくなってしまうので、量以上のストレスがかかります。

見通しの立てにくい業務も、全体像がみえないので結果につながりにくく、達成感が得にくいです。今やっていることが、全体の中でどのような位置づけになるかがわかりにくいと、ストレスはより増加します。また、電話対応などの流動的な業務のが多いと、担当業務の効率があがらないようなこともあります。

質的に変化のある業務は、その変化にあわせていくことが大変です。予期せずに業務が変化したり、突発的に業務が加わったりすると、ストレスは大きくなります。

【仕事のストレス(社外の人間関係)】
直接お客さんと関係を築く必要がある方は、さまざまなストレスがあります。

顧客の相性の問題もあります。つきあいにくい顧客はいらっしゃるかと思います。それこそ、問題のあるお客さんに接する方もいらっしゃると思います。それでも会社の名刺をもってきている以上、つきあわざるを得ません。
そのつきあいが半ば強要されてしまうこともあります。サービスにお金を出してもらう顧客には、そのサービスの内容だけでなく日頃のつきあいも影響します。ですから、無理をしなくてはいけない方もいらっしゃいます。

休日や勤務時間外などに臨時対応しなくてはいけないこともあります。「いつ呼ばれるかわからない」という心持ちで休日をすごすと、あまり休まりません。

それでも仕事が上手くいっているときは、大きくは問題にならないことが多いです。顧客との関係性が崩れていくのは、ミスが起きた時です。1度ミスが起きてしまうと、その対応はもちろんのこと、原因説明、予防などと対策を講じなければいけません。
そのような時に、会社としての建前を顧客に伝えなければいけないこともあります。直接伝えることもストレスになりますが、それ以上に顧客への伝え方を決定するほうのストレスも大きいです。

【仕事のストレス(社内の人間関係)】
会社は長い時間を過ごす場所です。そこでの人間関係が上手くいかないと、大きなストレスになります。会社での人間関係としては、部下・同僚・上司・部署・会社の5つの対象との関係性をみていきましょう。

部下とうまくつきあって円滑に仕事をしていくことは、とても難しいです。管理職としても自身の評価されるポイントになります。部下に信頼されていないと感じながら仕事をしていくことは大きなストレスになります。

同僚との人間関係が上手くいかないと、困った時に相談することもできません。また、疎外感をもちながら職場で仕事をしていくのもストレスになります。

そして上司との人間関係は、自分の評価にも影響するので大きなストレスになります。仕事のストレスとして最も多いのは、「上司から自分が思うように評価されていない」となります。

また、個々の人間関係ではありませんが、部署としての雰囲気や会社のビジョンへの共感も影響があります。

【まとめ】
ストレスは「変化の大きさ」が最も影響を与えます。

量的負担としては、

l  客観的な業務量

l  主観的な業務量

l  業界内での業務量

l  量的変化

l  休みの取りやすさ


質的負担としては、

l  責任の大きさ

l  並行業務の多さ

l  経験の少なさ

l  見通しの立てづらさ

l  質的な変化


社外の人間関係としては、

l  顧客との相性

l  つきあい

l  臨時対応の多さ

l  ミスの対応

l  建前と本音化


社内の人間関係としては、 

l  部下

l  同僚

l  上司

l  部署

l  会社との関係

不眠症の治療- 2024年10月9日-

不眠症の治療においては、不眠症状の原因に対してのアプローチ、薬物療法、認知行動療法が検討されます。

良質な睡眠を保つことができるような睡眠衛生指導が行われます。たとえば、毎日なるべく決まった時刻に寝起きする、日中に光を浴びる、寝る前のカフェインやブルーライトを避けるなどが挙げられます。

こうしたアプローチに加えて、薬物療法を用いることもあります。薬物療法は安全性の高いオレキシン受容体拮抗薬やメラトニン受容体作動薬が優先されますが、場合によってはベンゾジアゼピン受容体作動薬なども使われます。

薬物は漫然と継続するのではなく、定期的に症状を評価し、可能であれば減薬・休薬も試みます。認知行動療法は単独でも薬物療法との併用でも行われることがあります。適切なスケジュールで睡眠をとるトレーニングとリラクゼーション法を組み合わせる方法が一般的です。

【薬物療法】

① オレキシン受容体拮抗薬(デエビゴ・ベルソムラ)

作用機序:脳内で覚醒を維持する神経伝達物質として、オレキシンがあります。薬の有効成分が、オレキシン受容体1型、2型に競合して阻害することで、覚醒状態を抑えて、睡眠を促す作用があります。不眠症の治療として、処方されています。

(ベンゾジアゼピン系睡眠薬との違い)

従来から使われているベンゾジアゼピン系の睡眠薬は、GABA受容体に作用して、睡眠と鎮静の効果が出ます。
一方、オレキシン受容体拮抗薬では、作用機序が覚醒維持のシステムを抑えるという点で異なることから、より自然に近い睡眠となります。
長期に服用すると依存性が問題になるベンゾジアゼピンに対して、オレキシン受容体拮抗薬は、耐性と依存性の心配がない利点があります。

ベルソムラ(スボレキサント製剤)
通常、就寝直前に服用する
食事と同時又は食直後の服用は避ける(入眠効果の発現が遅れることなどが考えられるため注意が必要)

デエビゴ( レンボレキサント製剤)
通常、就寝直前に服用する
食事と同時又は食直後の服用は避ける(入眠効果の発現が遅れることなどが考えられるため注意が必要)

②メラトニン受容体作動薬(ロゼレム)
ロゼレムは、メラトニン受容体MT1とMT2に作用して、以下のメカニズムで不眠症における入眠困難の改善をもたらします。

メラトニン受容体MT1:神経活動が抑制される、体温が低下する(催眠効果)
メラトニン受容体MT2:体内時計のリズムが調整される(概日リズム調整効果)

上記の作用の組み合わせによって、「覚醒状態」の体内時計のリズムから「睡眠状態」の相へ切り替わるので、自然にとても近い睡眠状態をもたらします。

ロゼレム(ラメルテオン)
通常、成人にはラメルテオンとして1回8mgを就寝前に経口投与する

③ベンゾジアゼピン系睡眠薬

睡眠薬のなかでも、ベンゾジアゼピン系睡眠薬は多くの種類が発売されています。
効果の強弱・作用時間の長さもさまざまなタイプがあり、患者さんの状態に合わせて選ぶことができるのがメリットの1つと言えます。
そのため、不眠症のタイプに合わせ、睡眠薬の作用時間を変えていきます。

  • 入眠障害には、超短時間型~短時間型:サイレースレンドルミンエバミール
  • 中途覚醒には、短時間型~中間型:ベンザリンユーロジン
  • 早朝覚醒には、中間型~長時間型:ドラール

などを使用するのが一般的です。

(ベンゾジアゼピン系睡眠薬のメリットとデメリット)
メリット

  • 種類が豊富で幅広い不眠に合わせて処方できる
  • 効果がしっかりとし、即効性も期待できる
  • 不安や筋肉の緊張をやわらげる作用もある

しかし、その一方で、(デメリット)
  • ふらつき、眠気の持ち越し、健忘などの副作用が出ることがある
  • 睡眠のメリハリを減らし浅い睡眠を増やしてしま
  • 長期連用で効きが悪くなり、依存に注意が必要

そのため、特徴を知って上手に使うことが大切なお薬です。

最後に睡眠障害の原因はさまざまですので、睡眠薬は助けに使いながら、原因に合わせた対応をしていくことが大切です。
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